コンテンツ名

第36回 "何が何でも最後まで家で面倒をみる" という夫の思いに応えて

090914.jpg 代々木訪問看護ステーション 
小林 隆子

 代々木訪問看護ステーションは、最寄りの駅がJR千駄ヶ谷駅で、代々木病院とは目と鼻の先の位置にあります。常勤看護師が5名、理学療法士が週1日、事務が週2日勤務しており、このメンバーで90名前後の利用者さんの在宅療養を支えています。

 利用者さんは、持ちビルに住んでいる方、元大学教授などが多く、経済的に困窮している方は比較的少ないです。地理的には、代々木病院や在宅支援診療所の外苑診療所とも近いため、その2ヵ所からの訪問看護指示書が80%近くであり、いろいろな点で連携がしやすく、利用者さんにとっても、近くに代々木病院があるということが大きな安心になっている地域です。

●最近の特徴は
 この間の利用者さんの特徴から、代々木訪問看護ステーションの状況を紹介したいと思います。
 一つ目は、難病の方やターミナルの方が、大学病院などから往診と訪問看護がセットで紹介され、医療保険対応の方が増えてきているため、訪問回数が多くなっていること。合わせて、今年4月からの診療報酬改定で医療保険対応の訪問看護が引き上げられたことから、往診専門クリニックに併設の訪問看護ステーションが、医療保険対応の訪問看護だけにしたため、介護保険利用者の方が紹介されてきており、代々木訪問看護ステーションの利用者が増えています。
 二つ目は、独居でかつ認知症のある方や高齢者世帯が多いことです。老老介護の大変さを目の当たりにすることが多々あります。超高齢の老々介護のあるご夫婦を紹介します。

●介護する夫もされる妻もともに90代
 妻は90代で、認知症と脳梗塞後遺症があり、大腿骨を骨折後寝たきりとなりました。その妻を介護している90代後半の夫は、ご自身がフラフラしながらも、オムツ替えから食事介助など、ヘルパーさんの力も借りながら介護に全精力をかけていらっしゃいました。
 2003年4月から私たちのかかわりが始まりました。当初妻は認知症があるものの、手をつないでの歩行が可能でした。2005年6月にベッドから転落し大腿骨骨折で入院となり、3ヵ月後退院できましたが、ベッド上生活となりました。認知症も進み、元気もだんだんなくなって、ケア拒否や暴言などもできなくなってきました。夫はそのような妻をとても大事にされていることが、私たちにもたいへんよく伝わってきました。状態が変化してもその思いに変わりがなく、本当によく介護されていました。

●献身的な介護
 昨年の秋頃から、夫は疲労困憊の様子。ふらふら状態で居眠りも多くなってきていました。でも「大変だ」「疲れた」といった言葉は一度も聞いたことがありません。入院をすすめても「自宅で自分が面倒みます」と献身的に介護されていました。それだけに私たちも、「何が何でも自分が最後まで家で面倒をみる」という思いに応えようと、訪問看護を行っていました。休日の訪問も快く引き受け、日常のケアの内容も夫の思いを大切に希望に沿いながら行ってきました。
 ある日、夫から「朝から食事をしないので点滴をして欲しい」と連絡があり、主治医に指示をもらい点滴を準備して訪問したところ、妻はすでに亡くなっていました。亡くなったことに気付かずに、必死で何かしてあげようと思った夫の思いに胸がつまりました。妻の死は突然訪れましたが、私たちは夫の思いに応えることはできたのではないかと思っています。

●"断らない"を基本に
 高齢者世帯の現実は、綱渡り的な状態で、少しの変化で在宅療養が困難になってしまう方が多いです。この方たちの在宅療養は、様々な人たちとの連携なしでは支えられません。ますます増えると思われるこういう世帯の方たちの在宅療養を支えるために、これ以上、医療・看護・福祉の後退を許してはいけないと切に思います。
 全国的な看護師不足は大きな社会問題になっており、訪問看護ステーションでの看護師不足も深刻な状況にあります。それでも、地域の方たちの在宅療養を支えるために"断らない"ことを基本にして、頑張って訪問している毎日です。

看護NOW