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第42回 家族の理解を引き出し、 在宅療養を支える

農大通り診療所師長  奥山律子

 農大通り診療所は、在宅支援診療所として在宅管理患者数83名まで伸ばしました。往診単位を増やし、月曜日から金曜日まで毎日午後出動しています。重症患者さんも増加しています。重症でも入院せず在宅で治療を望まれる患者さんや家族も増えており、日々悪戦苦闘しています。

●「延命治療は望まない」
 80歳代のMさんは皮膚筋炎で夫と二人暮らし。横浜に住む娘さんの介護援助があります。2008年3月、皮膚筋炎の疑いで受診先の医師から入院治療を勧められましたが、自宅療養を希望され、農大通り診療所を紹介されました。
 来院時は歩行できていたのですが、日を追うごとに全身の浮腫、食事も食べられなくなり急激に悪化しました。そこで再三説得の上、代々木病院へ3月末入院していただきました。
 嚥下機能、皮膚症状の悪化が進み、専門医への転院を進めましたが、「これ以上の検査は受けたくない、延命治療は望まない」と拒否されました。プレドニン療法を開始したものの、夫が「痛い思いはさせたくない」と退院を希望されました。経口摂取ができないため、胃ろうかCV(中心静脈栄養)は必要不可欠でした。当診療所の医師もかかわり、再三の説得でCVを挿入し、医療依存度の高い状態で5月中旬退院されました。

●病状が安定、リハビリ開始
 夫の同意のもとに支援を開始しましたが、「毎日誰かが来て落ち着かない、訪問看護の回数が多い、ケアマネジャーが勝手に決めて困る」などの苦情が出ました。ケアマネジャーと医師からサービスの必要性を再度説明し、介護内容の調整を行いました。
 夫は"できる"と言っていますが、実践はかなり困難のようで、看護介入は減らせないことを話しました。娘さんに負担はかかりますが、毎日来て援助してもらい、ヘルパーや往診回数を減らしていきました。結果、二人で過ごせる時間が多くなり、安心に結びついたようです。
 次第に病状も安定し、在宅療養に慣れてきたこともあり、お二人の表情が和らいでいきました。7月には病状も更に安定し「何か食べたい、飲みたい、リハビリをして車椅子に座れるようになりたい」など積極的な姿勢が見られ、嚥下訓練、ROMなどリハビリを開始しました。
 夫にも余裕が見られ、「こんなによくなったのは先生のおかげです」と感謝の気持ちを表す反面、ケアマネジャーや訪問看護師とはうまくいっていない様子でした。娘さんの負担を減らすため、訪問看護師が夫に輸液の差し替えの指導を行い、プレドニンは内服へ変更しました。医療費に対する不安もあり難病申請を行いひとまず安心です。

●思いに共感しサポートする
 9月に右手の化膿疹よりMRSAが検出され「訪問看護がうつした」と訪問看護師を非難していましたが、主治医からの説明でやっと納得してもらいました。この頃より「以前のように元気が出ない」と訴えることが多くなってきました。10月末急変し、入院を勧めましたが希望されず、在宅での補液の調整、経口摂取中止、プレドニン注射へ変更、吸引、吸入等の対応と指導、訪問看護と連携をとりながら現在も在宅療養を続けています。
 医療依存度が高いほど医療者、介護サポート側と患者家族側との要求に乖離(かいり)が大きく、お互いが合意できるレベルを見つけ出すのに相当労力・体力が必要となります。患者さんがどうしたいのか、家族はどう思っているのか、その思いを上手に引き出し、医療介護チームがその思いに共感しサポートするのが、在宅医療なのだと考えています。苦労はありますが、支援を続けていきます。
看護NOW