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第43回 入院すると仕事がなくなる!

野田南部診療所 師長 原島澄子

 「医者にかかったことが、生まれてから50年近く1回もないのです。ここが家から一番近いので、やってきました」
 9月のある金曜日の夕方、体格のしっかりした男性が、保険証片手に受診されました。「息が苦しく、横になれないのです」と、40代のSさんは話しました。背も高くきちんとした服装の方です。さっそく血圧を測りましたが、あまりにも高いのでビックリ。血圧210/140、脈拍も120~140。めずらしくすいている外来でしたが、診察してすぐに、レントゲン、心電図を撮りました。少し肺うっ血もあり心不全状態です。

●入院は無理と外来治療を希望
 2ヵ月程前から力仕事のときに息苦しさが出ていたようです。職場健診でも高血圧など指摘され、受診を勧められていたようです。後日持ってこられた健診の結果を見たら、要医療の項目が血圧・蛋白尿など4~5個ありました。母親も高血圧があったようですが、詳しくはわからない様子。一人暮らしで、他県に住んでいる兄ともあまり交流がない様子です。
 医師は診察後、入院治療を勧めました。しかし、入院ではなく外来治療を希望されました。本来なら入院の適応ですが無理だということで、利尿剤を注射、内服薬を処方し翌日再受診ということで帰宅しました。翌日約束通り受診。「だいぶよくなりました。横になって眠れました」と笑顔。そのまま外来での通院管理となりました。

● つらいのは荷物の積み下ろし
 Sさんは、夜の6時から朝の6時までのトラック運転手。日中寝ては、夜仕事の毎日でした。食品関係の荷物を一晩で運び、自分で荷物の積み下ろしをするそうですが、荷物の積み下ろしが重労働。仕事も休めず、休むと収入がなくなる、仕事もなくなる、と入院を拒んだようです。結局3日間休んだだけで通常勤務に戻りました。
 夜間ぶっ通しのトラック運転がつらいのだろう、と思っていたのですが、それよりも荷物の積み下ろしがつらかったとは予想に反していました。詳しく聞かないと労働実態は把握できないものです。荷物の積み下ろしが、彼にとって大変つらい仕事だとわかりました。

● もっともっと寄り添って
 その後は、定期的に1~2週ごとの通院になりました。数日前の心エコーでも、心臓の動きがとても悪いと検査技師が驚いていました。外来通院が数回で、詳しい食生活や生活状況はまだ十分に聞けていない状況です。40歳代と若いSさん。通院の中で、生活や労働実態の把握をし、苦悩なども共有し一緒に考えながら、もっともっと寄り添うことが大切だと思います。
 生活と労働実態を把握し、患者の立場に立った看護を、長年努力してきました。本当に社会の貧困が進んできて、安心して医療機関にかかれない方々が、地域にはたくさん生活しています。ちょっとした相談の電話が今日も診療所にかかっています。些細なことでも地域の火の見やぐら的な存在になれたら、と思っています。
看護NOW