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第44回 リハビリを頑張ってやっと在宅復帰できたのにまた逆戻り

now44.jpg みさと協立病院 副総看護師長 
小渕 尚子

みさと協立病院は二つの療養病棟(うち一つは回復期病棟に転換予定)・障害者病棟・精神科病棟と、それぞれ機能の違う四つの病棟で構成されています。その中の2階南病棟は、38床の療養病棟で、様々な病態の患者さんを受け入れています。

●ADL全介助からリハビリへ
 70歳代の田中清子さん(仮名)は、パーキンソン病と多発性脳梗塞に加え、十二指腸潰瘍の術後に経口摂取が困難となり、腸ろうを造設。ADL全介助、排泄はオムツで、バルンカテーテルが留置されている状態でした。スタッフの声かけに開眼はされますが発語はなく、痰も自分では出せず、施設への入所までの療養を目的に2008年3月に入院されました。
 スタッフは意識的に声をかけ、「追視をした」「声かけに頷いた」など小さな反応でも、気づいたときには確認しあっていました。2週目頃に変化が現れ、単語ながら、発語による意思表示がみられました。そこでさらなる変化を期待して、実習の学生と一緒に散歩やリハビリなどを楽しむ中で、集団リハビリの輪に加わって歌えるまでになりました。

●在宅への可能性を追求
 田中さんは「口から食べたい」と自分の望みを語ってくれました。経口訓練で食べられるようになると回復への意欲はさらに増し、積極的にリハビリに参加され、立位訓練も行えるようになりました。田中さんの望みを一つひとつかなえるうちに在宅への可能性も見えてきました。
 退院について長女と面接すると、施設に入所するには経済的に厳しい状況であることがわかってきました。しかし、在宅でみるにも団地の5階に住んでいること、受験を控えた娘がいること、自分も仕事を抱えていること、など不安な材料ばかりでした。回復していく母の姿を喜んでばかりはいられないという事実にもぶつかってしまいました。ケアマネと共に何度も話し合いをもち、「とにかく1ヵ月やってみよう」と、通所サービス・訪問看護・ヘルパーなどを導入し自宅へ帰られました。

●長女の頑張り...でも限界
 退院後のフォローのため、ケアマネと病棟看護師が家庭訪問にうかがいました。長女はドアを開け、スタッフの顔を見るなり泣き崩れました。
 仕事と介護の両立は難しく、夫からも「もう病院へ帰せ」と言われていること、仕事を休みすぎて職を失いそうになっていること、5階まで背負って昇り降りしていたせいで、歯がボロボロになってしまったことなどを語ってくれました。
 在宅での生活は限界であるということで、今は再入院され、今後のことを検討中です。1ヵ月ぶりに病棟に戻られた田中さんのADLは退院前とほぼ変わらない状況で、長女の在宅での頑張りが目に見えるようでした。
 それだけに私たちは、経済的なゆとりがないと、望むところで暮らすこともできない社会に怒りを覚えます。生きていくうえで突き当たる不平等の壁。その大きさに圧倒されてしまうこともありますが、患者が家族とともに回復を喜び合える世の中をつくるためにも、力を発揮していかなければならないと学ばせてもらいました。
看護NOW