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第40回 オーバーステイでも治療を最優先に

おおくぼ戸山診療所 師長 竹村枝美子

 おおくぼ戸山診療所は今年で開設7年目を迎えました。診療所を利用される方も年々増加し、地域におおくぼ戸山診療所の名前がだいぶ知られるようになってきました。毎日の外来診療と、訪問診療を50件ほど管理しています。
 場所はJR新大久保駅から大久保通りを歩いて10分位の住宅地にあります。大久保通りは国際通りのようで、ハングル語や中国語が飛び交っています。そういう土地柄ですので外国人受診者も数多くあります。

●激痩せの李さん
 今年の8月はじめの猛暑日のことでした。中国人の李さん(仮名)のことで区議会議員の方から相談を受けました。咳が続き4月からは仕事もできず、保険証もなく、就労ビザも切れた状態。入国管理手続きをしてから受診してもらったほうが良いか?ということでした。「まず受診してもらい、医師と検討しましょう!」と即答。
 早速8月20日、雇用主の佐藤さん(仮名)夫妻と区議会議員の方に付き添われ受診されました。一目見るなり激痩せ状態で著しい衰弱状態!ただ事ではないと直感しました。胸部レントゲン撮影で肺結核が疑われる所見でした。急ぎ医療センターへ紹介し、翌日受診されました。結果、重症の肺結核で即入院となりました。

●中国から来日して10年
 40歳代の李さんは、10年以上前に中国から来日、とび職など土木関係の仕事をしてきました。妻子と別れて今はアパートで一人暮らしをしています。実は数年前からビザの更新をしていませんでした。そんな中で、今年1月頃から咳き込むようになったのですが、仕事はなんとか続けてきました。3月頃より疲れやすく仕事も手につかない状況になりました。経済的にも困窮状態で、食費はなんとかまかなえていますが、アパートの家賃は支払えず、雇用主の佐藤さんの援助を受けていたようです。
 オーバーステイ(不法滞在)については、医療センターへ受診に行く前に、まずは治療を第一優先にとの診療所の考えの下、診療情報提供書を本人に持参してもらい、入国管理局へ出頭してもらいました。病気が良くなったらすぐに出国という条件で治療継続の許可が出ました。
 医療費については、外国人の方であっても結核予防法での保障が受けられ、治療費の心配なく安心して加療できることがわかり、まずは一安心しました。現在も入院加療中で、生活費は同僚のカンパでしのいでいるようです。

●本人だけの責任?
どうしてこんなになるまで受診できなかったのか? オーバーステイや無保険状態。本人だけの責任でしょうか? 社会全体の責任もあるのでは...と考えさせられました。安定した仕事、安定した生活、社会保障の充実を願わずにはいられません。
 今回は素早い対応で一命は取りとめることができました。私たちは今後も、外国人に対しても無差別・平等の医療を心がけていきたいと思います。
看護NOW