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第56回 抜針事故ゼロを目指して

みさと協立病院 透析室  坂元美和子

 透析患者さんの高齢化が進む現在、どこの透析施設でも認知症患者さんの安静・安全に対する悩みを抱えていることと思います。当院は高齢者と精神疾患患者を中心に受け入れているため、今まで数えきれないほどの抜針事故を経験してきました。
 何度も試行錯誤を重ねて作成した抜針事故予防保護具を紹介したいと思います。

●認知症患者さんが抜針する理由
 今までの抜針事故の中で学んだことは、認知症患者さんは「痛み」や「拒否」から抜針するのではない場合が多かったことでした。透析治療の必要性を理解できないことはもちろん、自分が何をされているのかが理解できていない場合がほとんどでした。
 「自分の腕に何やらチューブが繋がっており、窮屈な物が巻かれている。邪魔なので外そう」と無意識に引き抜いてしまっていたのではないかと考え、それならば拘束感を最小限にして『外せない保護具』を作成してみようと取り組み始めました。

●4代目の保護具
 今回紹介する保護具は4代目です。今までの物は、血管圧迫や拘束感の強い物が多く、そして患者さんに外されないようにすることを目的にした場合は看護者側も外す際に時間がかかり、緊急時対応が遅れるなどの問題点が多々ありました。
 「患者さんには外しにくく、緊急時には素早く外せる」「患者さんに苦痛が伴わない」保護具が理想でした。
 ファスナーやボタンなどは患者さんの可動域を考え手の届かない場所に配置し、また目隠しの布をつけ、保護具全体を体幹に巻きつけられるようになっています。安全面を考え、ビニールの窓を取り付け、穿刺部の観察もできるようになりました。
 使用してみるまでは、保護具を着用することに抵抗するのではないかという不安が強くありましたが、認知症患者さんは驚くほど素直に着用させてくれました。このことからも、抜針行為が無意識であったことが推測されました。
 実際、使用してからは保護具を外されたこともなく、使用患者さんの抜針事故件数もゼロになりました。


●スタッフも保護具になる
 長時間ベットに拘束される苦痛は、認知症患者さんのみならず、全ての透析患者さんが感じているであろう苦痛なのだと思います。
 その中でも、認知症患者さんや幻覚妄想の激しい精神疾患患者さんは、現状把握や治療の必要性を理解できないことで、安静が保たれにくく危険が伴います。
 そんな状態の患者さんの安全を守る上では、保護具の使用だけでは不十分です。
 スタッフが常に眼を配り、声をかけ、世間話や昔話をしながら安心感を与えられるように心がけています。患者さんは話に花が咲いている時は危険行為に及ばず、笑顔を向けてくれることがほとんどです。
 薬剤で安静を保つ方法もありますが、薬剤の体内蓄積を考慮すると使用しないほうが患者さんの負担も少なくなるため、極力使用しない方針です。
 小規模透析室だからこそできることだと思いますが、数時間という長い時間拘束される中で、少しでも「楽しかった」と思ってもらえる時間をつくれるよう、スタッフ一人ひとりが「保護具」となり、安全透析を目指しています。

●「ここに来てよかった」と思ってもらえるように
 当院にやってくる患者さんの中には、数々の病院をたらい回しにされてきたり、断られたりという経験をしてきた患者さんも少なくありません。そんな行き場のない患者さんの砦の役割として、「ここに来てよかった」と思ってもらえる透析室を目指して今後も頑張っていきたいと思います。

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