東葛病院 6階西病棟 五十嵐きよみ
「何故ここまでひどい褥創が!」
Aさん(55歳、男性)は、重度の褥創(じょくそう)の治療目的で、高齢者専用住宅から入院されました。褥創は全身11ヵ所に及び、一部は骨まで達し、悪臭を放っていました。あまりのひどい褥創に鳥肌が立ち、涙がでました。

患者さんを囲んで
(写真は記事と関係ありません)
●「あそこには戻りたくない」
皮膚排泄ケア認定看護師が即対応し、チームでの褥創治療が開始されました。生活保護を受けているAさんは、「高齢者専用住宅での生活はひどかった。お金を使わせてもらえない。市の人にどこか他に行けないか相談していた。もうあそこには戻りたくない」と、MSWや看護師に訴えました。
Aさんは幼い頃より両親はなく、施設で育ち、施設を卒園してからは職を転々としていました。
2004年に脳梗塞を発症後、左半身麻痺となりました。病院を経由し、市役所の紹介で高齢者専用住宅で過ごしていました。そこでは十分な介護は受けられず、褥創が発生してもエアマットもなく、夜間もおむつ交換はない状態。本人用の電動車いすに1日中座ったままで、お金は月にわずか6千円だけ本人へ手渡されるという生活でした。人間らしい生活とはとても思えない状況でした。
●褥創がみるみる改善
皮膚排泄ケア認定看護師を中心に、チームでかかわり、連日のシャワー浴、1日2回の長時間の処置と、大変な努力がありました。その結果、年単位でかかるかと思われた褥創はみるみる改善し、4ヵ月たった今は、残すところ2ヵ所だけとなり、連日の処置も不要となっています。
たった一つ自由に動く右手を使って、Aさんは大好きな絵を描きます。ベッド上全介助の状態に、「自由になりたい」と時々イライラし、怒りをぶつけたり、不機嫌になったりすることもあります。しかし、それをわがままと捉えるのではなく、疾病をもった一人の人として捉えること。Aさんの願いに可能なかぎり応え、その人生を支援するには何ができるのかも課題です。
●今後の行き先をどうしたら?
現在当病棟には、6人の生活保護の患者さんがおられますが、そのうちの3人の方が同じ高齢者専用住宅から入院してきています。3人とも同様に「もうあの施設には戻りたくない」と訴えており、今後の行き先を探しています。
病気や障害があり、働くことはできず、家族も無く、生活保護を需給している人から利益をあげようとするこの実態に、本当に憤りを覚えます。