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第67回 隣は茨城、我孫子から

あびこ診療所 師長 山根 香代子

 昨年の9月から我孫子の東の天王台にある、あびこ診療所に赴任してきた。着任当時は土地事情がまったくわからず、診療所はきれいで、患者層も若い層が多く、民医連の特徴でもある経済困窮者は「ここには来院していないの?」と思わせる待合室風景だった。

 着任から2~3ヵ月は、私にとってはすべての患者さんが新患だった。外来のシステムが今までの経験とは違うため、看護師として患者さんを生活の視点から、社会的視点から見つめ、民医連看護の関わりができるのか、悩みは続いた。そんな中でいくつかのケースに遭遇したので、紹介したい。

●〈ケース1〉すわっ! 派遣切り?
S・Rさん(1977年生まれ、男性)

 10月28日、初めて当診療所を受診。主訴はしびれ、寒気だった。待合室で待っているRさんは、タオルを持って絶えず顔を拭っていた。診察までに待合室で気分不良で倒れられたらどうしようと気を揉みながら、サチュレーションを測定したり声かけしたりして様子を見ていた。問診表には、8月に熱中症になり、その後体調がおかしくなったとある。職歴は、2ヵ月前にアルバイトで辞めたと記載されている。保険は自費。年齢からみて、「すわっ! 今の時世の派遣切り?」

 医師の診断は、過換気症候群。保険が自費なので、どうしても診療抑制が働く。でも、患者自身から「お金は払えるので検査をしてください」との申し出があり、採血をしながら「実家はどこ?」「神奈川です」。「お母さんには体のこと、言っているの?」「いいえ」「食事はきちんと食べているの?」「ええ何とか」。ぼそぼそとした返答。

 採血結果を聞きに来院しない。お金に困っているのだろうか。気になりながらもしばらくそのままに。どうしても気になり、11月18日に電話をかける。電話の向こうで「受診しようと思っているが、体調が思わしくなくて」と、来院に消極的。「先生が検査データを見て、異常なデータがあるので受診したほうがいいのではと言っています」と伝えると、「本当ですか」と、その日に受診。何か人恋しい感じが伝わってきた。彼は無縁社会のなかにいるのではないだろうかと思いつつ、電話1本で医療がつながったことに安堵するとともに、無縁ではないことをどこかで感じてほしいと思ったケースであった。


●〈ケース2〉生活の不安から保険証がよく変わる
N・Sさん(1951年生まれ、男性)

 病名...糖尿病。中断の常習者とのこと。2009年8月からHbA1cは12とアップ。2010年8月4日受診。主訴は体調不良。尿糖4+。デキスタハイ(500以上)。この間内服していなかった。仕事はタクシードライバー、家は農家で農繁期には手伝っている。次回受診が8月30日。内服の効果かデータは改善。

 11月24日に受診。主訴、気持ち悪くて食事が摂取できない。水ものばかり飲んでいる。その日の血糖値は790。HbA1c10.8。今回の中断は、保険がなく受診できなかったとのこと。11月24日の結果から、来院するようにと連絡をとるが、本人につながらなかった。

 糖尿病患者で壮年者に、ケース2のような経済的事情や、経済的に大黒柱のためデータが悪くても入院できない、つい中断してしまうという事例が数例あった。

 以上気になるケースを紹介した。もう一歩踏み込めないもどかしさはあるが、小さなシグナルを見落とさず、気になる患者さんには、臆せず働きかけ続けたい。このことが「地域に根ざす」という民医連綱領の実践なのだと感じた。

看護NOW