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第75回 何が必要なのか、できることは何か

松戸なのはな訪問看護ステーション 所長 三浦純江

 Kさん(70歳代)との出会いは、ケアマネからの「明日退院の方です。訪問看護お願いします」で始まりました。都内の病院からの退院で、よくあることといえばその通りですが、腎ろうと腸ろうがあり、Kさん自身もご家族もケアができない状態。病棟スタッフからは「訪問看護師は何でも知ってるし、何でもできるから」といわれた、というKさんの言葉には、困ってしまうとともに、在宅療養生活へのイメージはまだまだ浸透していないのだなと残念に思いました。


スタッフそろって
●「良くなりたい」

 Kさんは病棟スタッフさんの言葉と、医療者がきちんと管理しないと不安という思いから、契約前にもかかわらず処置依頼のコールがありました。開始後も、腎ろうからの漏れがあるからガーゼやフィルムを交換してほしいと緊急コールが何度もありました。配偶者(70歳代)が認知症で、子どもさん(長女:30歳代、長男:30歳代)は仕事のためケアに関わることが困難でした。


 それでも、回数を重ねていく中で少しずつケアへの指導や、アドバイスを行えるようになってきました。Kさん自身はリハビリに意欲的で、「良くなりたい」との言葉がありました。



●『家にいたい』という思いの強さの裏には...

 しかしながら、Kさんの病状は決して安定や改善してきている状態ではなく、下肢のむくみは日に日に増し、食欲も低下していきました。このままでは在宅療養の継続は難しいのではと思い、受診や入院などの話をしましたが、受け入れてはもらえませんでした。焦りとも感じられるKさんの様子。


 その『家にいたい』という思いの強さの裏には、娘さんの結婚式が控えていたためだとわかりました。11月の挙式の予定を8月に繰り上げたそうですが、それでもなお、出席は危ぶまれる状態でした。「結婚式に出るためにも、今入院して体調を整えるという方法もある」「ぜひ見せてあげてほしい」と、スタッフがKさんと娘さんに話しました。お二人とも涙を流しながらも、決心を固めていただけたようで、すぐに入院に至りました。もう帰ってこられないかもしれないという不安は、とても強かったと思います。



●もっと何かできたのではないか

 しばらくして、ケアマネから「都内での結婚式の際に、自費で構わないので付き添いをして欲しい」と家族から相談があったと連絡がありました。「なんとしても!」とスタッフ一同でスケジュールなどを話し合いました。しかし、結婚式の1週間ほど前に病院でお亡くなりになったため、実現はできませんでした。


 連絡をもらった時、悔やまれたのは『もっと何かできたのではないか』という思い。訪問開始から約1カ月半でその間の病状の展開はとても早く、やっと関わりが持ててきたところで入院されました。せめて、退院前に連携が取れていればという思いと、Kさんもご家族も在宅療養生活のイメージができていないままの退院で、「とにかくやっていくしかない」という思いだったのでしょう。残念でなりません。


 Kさんと出会えたことで、ステーションのスタッフは連携やチームとしての援助、『何が必要なのか、できることは何か』という看護の大切さを再確認できたように思います。

看護NOW