外苑診療所 中田美智子
私は2010年6月、外苑診療所(以下、外診)から訪問看護へ異動後、今年3月下旬、再び外診で勤務になりました。往診部門が代々木病院に移ったため、外診は外来診療と保健予防を中心とした診療所へと変わっていました。

外苑診療所の玄関
●「気になる患者さん」、毎月まとめる
患者さんの特徴は以前(2年前)と比べ、大きく変わることはありません。地域で長年通院している方やこの地域に通勤している方で、慢性疾患の管理をしている方、季節的な疾患(風邪、花粉症など)で受診の方、また小児科の標榜はしていませんが、小児の軽い疾患、予防接種、自治体健診、事業所健診等です。
しかし、そうはいっても、病状の悪化やADL低下、認知症の合併で通院困難となり訪問診療へ移行、施設入所、転居や亡くなられた方等、改めて高齢者にとっての1、2年の変化に驚きを感じているところです。そこで、毎月気になる患者さんについて、まとめ、振り返りをするようにしています。
●元気だったAさんが転倒…
Aさん(82歳)はC型肝硬変、2人の息子さんは独立し、一人暮らしです。5階建ビルのオーナーで自ら貸事務所を管理されています。1996年に夫が他界後は、事務的処理も含めすべてAさんが行っています。そして毎週1日は、某私立大学で政治経済の講義を受け、レポートや試験もこなしています。
外診へは2000年から通院。月1回、都内某病院の肝臓内科へ定期通院し、血液データを持って外診へ受診し、外診では週5回肝庇護治療の点滴を行っています。
6月半ばの雨の降る夕方、帰宅中に路上で転倒、右腕を強打し広範囲に皮下出血、腫脹、擦過傷を負いました。骨折は無く約2週間で治癒。転倒以降元気がないように見えましたが、打撲痛や傷の治癒と共に回復するものと思い、見守っていました。ところが「食べたいと思わないのよね」から「食べても味がしない」などの訴えが聞かれ、点滴を希望しました。
7月の猛暑も重なり短期間のことと考え点滴を行いましたが、点滴に依存する傾向にも思えました。点滴をすることで安心し、食べるほうへ気持ちが向かわないようでした。常日頃から食生活にも配慮されているAさんは、説明やアドバイスで理解できるものと思っていましたが、その兆しは見えず、メンタル的問題が考えられると判断しました。
●点滴依存から脱出できた!
そこで、ご家族と連絡を取ってみると、二男のお嫁さんは、「義母は真面目で人に頼らず、義父が亡くなってからずっと気を張って生活してきている。転倒がきっかけで気持ちが折れてしまったように見える」と話されました。
その後、息子さん達夫婦も交替で訪ね、一緒に食事をする機会を持つようになりました。この間(7月後半)に主治医の交代で治療方針を明確にし、ご家族の協力もあり、徐々に安定し、点滴依存から脱することができました。
9月初めには、2泊3日で軽井沢へ家族旅行に行き、「体力に自信が無かったけど、婦長さんが大丈夫と言ってくれたから」、「ホテルではフランス料理を堪能してきた」と嬉しそうでした。
これは、地域で安心して暮らし続けることを援助できた事例で、私たちも大いに励まされました。今後も患者さんが発しているサインを見落とさないように、アンテナを高くしながら、気になる患者さんへの働きかけを続けていきたいと思います。