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第89回 大切なフットケア

代々木病院 透析室看護主任 濱田 美穂子

 

●透析患者さんの足が危ない

 透析患者さんの高齢化や、糖尿病透析患者の増加、また長期透析患者の増加により、透析患者における下肢病変が、以前にも増して年々問題となっています。

 当透析室においても例外ではなく、当院管理患者約54人のうち、30人(55.5%)と半数以上の患者さんが、下肢病変のリスクを持つ対象者になっています。

 さらに、手根管症候群や腰痛等のため、体が自由に使えず爪切りができない日中独居の患者さんを含めると、その対象者はもっといる状況です。


●フットケアの実際

 私たちは、2003年より上記の患者さんに対し、フットケアを開始しました。

 はじめは勉強会を開いたり各研修に赴いたり、手探り状態での基準作りでした。実践においても、異常の早期発見はできてもアセスメントが難しく、看護師全員で一人の足をチェックしたりと、かなり奮闘したことが記憶に蘇ります。

 いろいろな経験をし、試行錯誤を経て、現在では月1回のフットケア週間を設けて、定期的に対象となる患者さんのチェック・爪切り・生活指導をしています。

 問題のある人は皮膚科受診を促したり、重度の場合は専門外来の受診をさせたり。また、必要な人は毎回足浴・処置を行っています。


●Sさんの足浴をして思ったこと

写真  最近ではSさん(男性71歳)の足浴を通して、ASO(閉塞性動脈硬化症)の疼痛緩和を図るという取り組みがありました。Sさんは元々糖尿病性壊死にて足 の指を切断。血管バイパス術も行っていましたが、その後も血行不良状態で傷が絶えない状況でした。また、透析開始とともにさらに血行が悪くなり、足が吊れ たり痛くなったりと辛い透析が続いていました。透析のやり方を工夫しても、薬物療法もほとんど効果がないため、私たちはSさんの痛くなる時間に合わせて、 足浴と足の処置を一度の透析に2回取り入れてみました。

 他の患者さんがいる中で、しかも血液の返血時間の忙しい中でも、なるべくSさんの痛 みの軽減が図れるように、スタッフ全員が助け合い、看護師だけでなく、臨床工学技士にも協力してもらっての作業でした。一人では足浴の姿勢がとれないSさ んを介助し、血圧が下がらないよう注意しつつ、足浴中、安楽な姿勢を布団などで工夫しながら対応してきました。

 足浴は、Sさんにとって透析中の痛みを和らげる唯一の手段であり、時には3回・4回と希望してくることもありました。大変でしたが、それだけSさんが足浴やスタッフを頼っていたということだと思います。

 実際、足浴中は痛みの表情も和らぎ、「気持ちいいです」と言って目をつむり、ウトウトされる時もありました。辛い透析通院の中で、足浴中は少しほっとできたのかもしれません。

 Sさんが足浴用の入浴剤を自ら持参してその香りを楽しんだり、痛みがとれた時の「ありがとう」という言葉と笑顔に、こちらが癒される時もありました。


● さいごに

 残念ながらSさんはお亡くなりになってしまいましたが、これからも私たちは、一人ひとりの患者さんに寄り添って、痛みや辛さを多少なりとも緩和し、また少しでも長い時間自分の足で歩けるよう、お手伝いしていけたらいいなと、フットケアを通じて改めて思いました。

看護NOW