コンテンツ名

第92回 精神科外来で試みた「心の扉ノート」

東葛病院附属診療所   精神科外来担当 澁田 夏子(看護師)

 

 最近の社会構造の変化の中で、精神疾患を抱えた方が増え、精神科外来の役割は多様化し重要になっています。しかし、現実には予約数も多く、医師が患者一人にかける時間は5分程度です。患者さんの経過観察の必要性を感じながらも、その困難さに悩んでいました。

 そんな中、患者さんの悩みを整理しメモにして渡してみると、診察前にメモの返事が来るようになりました。返事が増えて、やがて、患者さん自身で心の整理ができるようになったのです。

 メモだけではその日の出来事を振り返り、自ら内省のきっかけを失うことになるため、自由に思いを書けるように大学ノートを使用し、「心の扉ノート」と名付けました。患者さんとノートを通した交流が始まり、ノートを通して患者さんやその家族の心の変化を知ることができ、患者さん自身にも変化がみられるようになりました。

 

●「心の扉ノート」使用前

写真  Aさんは、障害年金と親の援助で一人暮らしでした。心の扉ノート使用前は、とても緊張し表情も固く、手のふるえが見られていました。浪費やローンのことで頭が一杯になり、苦しくなると、過呼吸症状を起こすこともありました。一人ではお金の使い方をコントロールできない状況で、その時試みたのがこのノートでした。ノートに何でもいいから思っていることを「書く」という作業をお願いすることから始めました。


●変化が...

 ノートを渡す時、Aさんは疑心暗鬼の様子でした。「微力ですが貴方の傍にいて貴方のことをもっと知り、悩みを共有し一緒に歩かせていただきたいのですが...私は貴方が大切だから」と言葉を添えました。また、ありのままの自分の姿と向い、決して無理しないで心を閉ざした時に記すようにと伝え、話を傾聴しました。

 次第に浪費する金額が減り、また、なぜ浪費してしまったのかノートを通じて振り返り、時間をかけて話し合うことができました。その中で、ご家族に対する恐怖感があるとわかりました。粘り強く話し合いをしていくうちに、Aさん自身が、自分自身の不甲斐なさと向き合い、自分を認め受け入れていくことができるようになりました。Aさんと家族・医療者との繋がりができるようになりました。

 今では経済観念も出てきて、自分自身を知ることで、家族とも団欒が取れるようになりました。障害者就労に就き、両親に対しても感謝の気持ちが溢れ、素直に「ありがとうと言えるようになった」と笑顔で話しています。


●心の通い合う精神看護を目指して

 Aさんは、ありのままの姿を受け入れられたことで、人との関わり合いの中で生きる勇気・喜び・感謝を取り戻しました。また、このノートがAさん自身の心の支えとなり、架け橋になったことが大きかったと思います。

 今後もノートを活用し、少しでも心の扉を開くことができるように手助けし、信頼関係を築き上げ、心の通い合った精神看護を目指し、共に成長していけるように心がけていきたいと願っています。

看護NOW