経堂すずらん訪問看護ステーション 松永 薫
すずらん訪問看護ステーションは、商店街の中にあります。先日も突然「90代の妻が大変そうで、助けてほしい」と、おじいさんが扉を開けて相談に訪れました。
飛び込んでくる地域の相談事の中で、最も印象に残るAさん。Aさんとの闘いの日々が始まったのは、月曜日の朝の電話からでした。地域のケアマネさんから「急ですが、訪問に入ってもらえないでしょうか。K病院から週末自己退院してきたのですが、人工肛門が外れて便まみれで動けなくなっているらしいんです」。ケアマネさんは退院前カンファレンスで、「お前ら金儲けのためにやってるんだろ、よけいなお世話だ」と、Aさんに断られました。しかし、困ったAさんは、渡した名刺を頼りに連絡してきたのだそうです。
●罵倒されながらの訪問の日々
Aさんの事務所は当事業所のすぐ近くでした。事務机と壁の隙間にビニールシートが敷かれ、便まみれで困り顔のAさんが横たわっていました。ストマ周囲は広範囲にびらんし、仙骨部には褥瘡もできていました。結腸がんの腸閉塞でK病院に緊急入院。腸閉塞解除のため、一時的に小腸に人工肛門が造設されたのです。病状について病院も再三説明されたようですが、Aさんは「がんであること」を否定、「手術が失敗した」という受け止めでした。
一時処置で食べられるようになったAさんには、入院している必要はなくなったのです。人工肛門に対しても、「傷から膿が出ている」「よくならないのはお前らのやり方が悪いからだ」という発言でした。初回訪問以後は、フランジが便漏れしてすぐに外れるのは看護師の手技のせい、「つべこべ言わずにさっさとしろ。よけいなことを言うな」と罵倒されながらの訪問の日々となりました。
食事の準備・清潔ケアで入っているヘルパーさん達には、さらにひどい態度でした。ケアマネさんへもしかりです。キーパーソンの別居中の奥さんも、数年前に自宅から逃げ出したそうです。介護保険料も滞納しており、区の職員も来ましたが、威嚇して追い返す始末。
●吉田先生の粘り強い説得
農大通り診療所の吉田先生が、粘り強くAさんに向き合い、根治術をする必要性を繰り返し話してくださいました。地域の中核病院があらゆる事情を了解して受け入れてくださることとなり、約4ヵ月後に入院となりました。
Aさんは病院でも大騒ぎしたようですが、がっちり受け止めてくださり、手術は終了。退院をされたとケアマネさんから連絡がありました。
●そして、普通に歩いている
普通に歩いているAさんとは、時々すれ違います。私達のことは無かった過去なのかもしれません。
訪問看護は、雨にも負けず、風にも負けず...。そして威嚇するAさんにも負けずに乗り越えられたのは、地域の関連部署間のチーム力が発揮できたからです。チームでAさんの状況をタイムリーに共有し、お互いの苦労をねぎらいながら、根気強く向き合ったことで、奇跡的に解決の方向性が開かれたと感じます。この場をお借りして、吉田先生、お疲れさまでした。