みさと協立病院 外来師長 菊地 玲子
みさと協立病院の外来は、精神科と内科が併設されていることで、地域の病院や診療所などからの紹介が多く、病院の理念である「こころとからだの総合診療」に対する期待の高さを実感しています。
多くは精神科疾患と糖尿病や高血圧症などの慢性疾患管理を必要とされている中高年の方々ですが、若くて両科にかかる方もいらっしゃいます。中でも30代のAさんは、当院に長く通院されています。
私は、Aさんのコツコツと努力される姿、成長し続けようとする姿勢に出会うたびに、勇気づけられるのです。

●車椅子で大学院へ
Aさんは10代で統合失調症を発症し治療をしてきましたが、20代のころ自殺企図による飛び降りで脊髄損傷になり、それ以来車椅子での生活を送っています。当院へは自殺企図後、リハビリセンターを経て、両科併診が可能ということで2004年から通院を続けています。
勉強熱心で研究者になる夢を持ち続け、通信制大学を卒業後大学院へ通うことに決めました。日常生活を送ることさえ大変で、本人の努力に加えて多くの方のサポートが必要な状況です。訪問リハビリ、訪問看護、訪問介護のほかに、2週に1回の定期受診と通学。大学へは車椅子を自走し、公共交通機関を乗り継いで通っています。駅員さんの協力を得たり、学内でもいろいろな人たちのサポートをもらいながらの生活です。
●行動することがリハビリに
もともと統合失調症による障害からコミュニケーションが上手ではないAさんが、通学のために前もって駅に協力を依頼したり、急遽周りの人にSOSを発信しなければならないこともあり、私たちには想像もできないような困難に直面しては克服し...という毎日を送っています。
時には精神症状が強くなり、外に出られなくなったり、人に会うことが辛くなったり、人を信用できなくなったりすることもあるようです。それでも、Aさんなりに自閉をしたり、信頼できる友人とのふれあいで自信を深めたりと対処方法を見つけて乗り越えています。「こうしたい」という思いが次の行動を促す原動力になり、行動することがリハビリとなり、Aさんの生きる過程そのものになっています。さらに、今はマラソン大会への参加に向けて練習を開始したとか。
●同じ今を生きて
障害の有無に関わらず、生きる苦労は誰にでもあります。そして、喜びも...。同じ今を生きている私たちは、Aさんの生き方に触れるたびに、応援しているつもりでいながら、反対に励まされていることに気づくのです。
経済面での苦労や障害者自立支援法の不備など、解決すべき課題はたくさんあります。病気や障害をもっていても暮らしやすい世の中を目指し、共に社会を変える運動を続けていきたいと思います。