農大通り診療所 師長 竹村 枝美子
農大通り診療所は、世田谷区で唯一の民医連の診療所です。小田急線の経堂駅が最寄り駅です。
経堂地域は、ふつう民医連を頼ってくるような生活困難の方は少なく、外来数は伸び悩んでいます。一方健診は、土建・被爆・企業と一定数を保っています。ここ数年伸び続けているのが在宅診療です。
●相談されたら断らず、できるだけ早く
在宅診療の制度で2006年4月より在宅療養支援診療が始まり、2012年6月より強化型在宅療養支援診療となり、往診数もメキメキと増えています。2012年3月管理数119人、2013年3月145人、11月159人と右肩上がりを続けています。増えるにつれ単位も増やし、月曜~土曜まで毎日往診を行っています。毎日往診があることで、臨時の対応もできるメリットがあり、患者、家族、スタッフも安心できます。
増えている要因は、これまでの先輩方の医療活動の土台と、2007年吉田所長の就任後、地域の医師会・訪問看護ステーション・ケアマネとの懇談会、また近隣の病院との連携会議などへの参加を意識的にやってきたことで、ケアマネからの紹介が増えたり、近隣の病院から往診の相談も増えてきていることがあげられます。
相談されたら断らず、をモットーに、できるだけ早く往診することを心がけて奮闘しています。
●“気になる出会い”から往診につながった
エレベーターのない3階のMさん宅へ往診に行く途中、同じマンションの玄関でタクシーから降りるご高齢のご夫婦を見ました。往診を終えて降りていくと、1階途中で立ち往生し、夫が妻を押すようにしています。先生と手分けして4階の部屋まで介助しました。妻はほとんど話さず、夫は難聴でこちらの言っていることが伝わらず、夫に「困ったら連絡ください」とメモを書いた名刺を渡しました。それを見ていたMさんの奥さんが老夫婦に話してくれることになり、あとで連絡をもらうことにしました。
翌日、Mさんの奥さんより報告。「筆談でしかコンタクトがとれず、大変だった」と言いながら、「すぐにでも往診して欲しい」とのことでした。
翌週月曜日、甥夫妻とケアマネが同席し、往診しました。筆談で1時間。「今困っていることは」の質問に、夫は「自分が動けなくなり妻の面倒がみれない。通院が困難。妻が元気なうちは一緒にいたい。離れたくない…」と書きました。妻は83歳で、双極II型障害とアルツハイマーがあり、夫は88歳、脊柱管狭窄症、硬膜下血腫の手術後。75歳まで会社社長をしていました。夫婦で新宿のJ医大へ通院していたそうです。
●安心して暮らせる場所探し
ケアマネの情報では、「地域包括支援センターの依頼で4年前から関わっている。当初はゴミ屋敷状態、床は汚物だらけ。1年かかって、少しは住めるようになった。今回の夫の手術で、在宅は困難ではとケースワーカーと相談し、施設を考えていた。一人息子も施設を勧めたが、結果はだめだった」とのことでした。
毎週往診することになりました。行くたびに妻は尿便まみれで、おむつ交換の介助を行いました。「もう少しサービスが入らないか」とケアマネと相談しましたが、妻の介護拒否があり、ヘルパーも入れる人がいないとのこと。そうこうするうちに夫の硬膜下血腫が再燃し突然入院に。妻は急きょショートステイに入りました。今後は施設の方向になるでしょうが、二人で安心して生活できる場所探しをケアマネとやっていけたらと思っています。もし、家に帰ってきたとしても、今以上のサービスを受けられ安心した生活を送って欲しいと願っています。