農大通り診療所師長 奥山律子

小田急線の経堂駅を降りて農大通りをしばらく歩き脇へ折れると診療所があります。朝電車を降り立つと、通りは小学生から大学生など、学生が多く若者の街という感じで活気に満ち溢れています。
農大通り診療所は、十数年前「世田谷にも民主診療所を作りたい」と友の会を中心に立ち上げた診療所です。先人の地道な、献身的な努力があり現在では、外来診療、健診、訪問診療を中心に幅広く活動しています。
外来は朝からにぎわっていて待合室はいろんな会話が飛び交いアットホームな雰囲気で一日が始まります。いろんな患者さんがいらっしゃいます。癌が見つかりかたくなに手術を拒んだAさんは「夏まで持つかなー、みんなに迷惑をかけたくない。私は人の世話をするのが好きなんだよ」と、骨の痛み止めのテープを使用しながら、外来に来たときは、テープの貼り方を確認してもらい、最近の出来事を沢山話し満足して帰られます。しかし直帰するわけではなく認知症の○○さんの家に様子を見に行くのです。脱帽です。Bさんは検査で胃がんが見つかり「もう死んだっていいんだよ」と手術を拒否。要介護2(いざってトイレに行く、難聴)の奥さんの介護をしています。無口なBさんは自分のことはほとんど話さないので、奥さんの訪問診療のたびにBさんの様子をうかがっていました。「ちょっと痛いかな、あんまり食べられないかな」とBさん。奥さんは「この人と同じ食事のおかゆ、だからお腹すいちゃって」と愚痴っています。次第に食事がのどを通らなくなっていることを知り、早々手術のため入院しました。介護者がいないので奥さんも入院となりました。
診療所ならではと思いますが、ましてや訪問診療を行っていると、病気を通してその人の軌跡、家族背景、社会が見えてきます。時には解決できない問題が山積みで落ち込むこともありますが、患者さんや家族から感謝された時はその何倍も元気をもらってスタッフ一同がんばっています。